腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

胃癌での免疫チェックポイント阻害薬末梢血biomarkerとしてアルブミン・CRP指標のGlasgow Prognostic Score (GPS)が有用な可能性

Soluble programmed cell death ligand 1 associated with clinical outcome in gastric cancer patients treated with nivolumab: Blood based biomarker analysis of DELIVER trial (JACCRO-GC08AR)

【雑誌】Annals of oncology VOLUME 33, SUPPLEMENT 4, S359, JUNE 01, 2022

(journal) https://www.annalsofoncology.org/article/S0923-7534(22)01097-3/fulltext

(Impact factor)

(author) H. Kawakami(kinki university)

(癌腫胃癌

(カテゴリー)Glasgow Prognostic Score (GPS)

(目的)胃癌におけるNivolumabの末梢血におけるbiomarker探索

(方法)501例のうち439例のNivolumab使用例の血清で使用前のsoluble markerを調査、primary endpointsPD-1sPD-L1、およびsCTLA-4PFSとの関連性、secondary endpointは可溶性マーカーと臨床転帰のいくつかの関連性について。 Glasgow Prognostic Score (GPSアルブミンCRPの点数毎に層別化を実施。各々albumin <3.5 g/dL 1点,CRP 1.0 mg/dL 1点を割り当て,低リスク(0点),中リスク(1点),高リスク(2点)のスコアとしている。

(結果)

sPD-L1が高いとPFS不良と相関する傾向だったが有意差はなし(P=.070)、(sPD-1sCTLA-4は関連なし

OS不良はsPD-L1高値(P=.005)sCTLA-4値(p=.023)が関連(sPD-1は関連なし)

ベースライン因子で多変量解析を実施した結果、sPD-L1血清アルブミンCRPOSと独立して関連

GPS012)およびsPD-L1(高 vs. 低)により患者を層別化

OSが最も悪いサブグループは「GPS2 & high sPD-L1」(2.83カ月[95%信頼区間{CI}, 2.40-4.40] 

次いで悪い群は「GPS2 & low sPD-L1 / GPS1 & high sPD-L1 」(4.24カ月[95% CI, 3.40])

最も予後が良好な群は「GPS0 & low sPD-L1」患者(12.00ヶ月 [95% CI, 9.36-13.54] 

 

(結論ベースラインのsPD-L1値は、進行胃癌におけるPD-1阻害ニボルマブの生存を予測する可能性があり、そのうち、栄養と炎症マーカーであるGPSを組み合わせることで予測精度はより信頼できるものになる可能性

(解釈上の限界)

solble factorのカットオフの定義が弱い(ROC設定ができていない)

・単独コホートの検証のため、ランダマイズドPhaseクラスで検証される必要性

solble markerが各々何由来なのかが不明瞭

(自己考察)

2021年に日本臨床腫瘍学会で見かけたときから興味を持っていた試験。JACCROという臨床試験Groupで実施されている胃癌におけるNivolumabの最適化を目的としたものとなっている。今回はその続報ということで、近畿大学の川上氏からアップデートされている。

Solble factorが免疫チェックポイント阻害薬にどういう影響を及ぼすかは小さなコホート研究でいくつか検証されているが、これだけ大規模な検証は見たことがなかったので期待していた。Solble factorの一番厄介なところは、その因子が何由来のものなのかがよくわからないというところである。各細胞から切り離された因子が末梢血に浮遊しているわけだが、これらの因子は腫瘍だけではなく正常組織由来も考えられる。健常人をコントロールとしたValidation cohortcontrolに立てておけばより明確だったのではないかと感じる。

奏効例、無効例でのsolble markerの変化量が気になるところでもあるし、1回目の効果判定の際にどう変動しており臨床効果に相関しているかが気になる。ただし画像所見のタイミングを規定していない限り検証は無理なので、やはりちゃんとした臨床試験でないとタイミング一致は難しいだろう。

GPSも多方面で検証されているが、これだけくっきり差が出るということは、やはり免疫チェックポイント阻害剤はhost factorに着目をするべきであると感じさせられるものであり、単にPS不良ではなく、PS不良の原因は何なのかを分解する必要性を感じさせられる。

アルブミンは免疫チェックポイント阻害剤において結構強い予後因子になっているという報告もあれば、CRPもベースライン高値で予後不良というデータも多く出ている(ただし最近はCRP flareのように一過性にCRPも上昇するケースもあるので絡みが難しそう)。しかしCRPは海外ではルーチンで測定されておらず、日本で積極的に検査されている指標でもあるので、日本のオリジナリティが活きるとも思える。

現在は、Nivolumab単剤で使われる機会は併用レジメンで展開されているため、同じような傾向になるのかを個人的には見てみたい。

特に化学療法と併用するケースや抗CTLA-4抗体と併用するケース、また腎細胞癌ではTKI肝細胞癌ではbevacizumabと併用されるので同じような傾向になるのかも気になる。