腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

【nature】難治性軟部肉腫で免疫チェックポイント阻害薬が有用な可能性を示唆

●B cells are associated with survival and immunotherapy response in sarcoma.

Nature. 2020 Jan 15. doi: 10.1038/s41586-019-1906-8.】(open accessではない)

Petitprez F

Team Cancer, Immune Control and Escape, Centre de Recherche des Cordeliers, INSERM, Paris, France.

 

【臨床上の問題点】

・軟部肉腫では免疫チェックポイント阻害剤は効かないのか?

・どのような腫瘍に対して免疫チェックポイント阻害薬は有用なのか?

 

【内容】

軟部肉腫は50種を超える組織学的サブタイプを伴っており、不均一性の性質を有する事から免疫チェックポイント阻害薬の効果は限定的と言われていた。実際、過去の検証では軟部肉腫における免疫チェックポイント阻害薬でポジティブになった試験は無い。

この多様性を解明するために608もの腫瘍における遺伝子発現プロファイルを網羅的に解析している。軟部肉腫を遺伝子発現に応じて5つの表現型に分類したとの事。

そして、免疫チェックポイント阻害薬のpembrolizumabによる試験(SARCO028)の結果から治療効果はどうだったのかを検証している。

 

このSARC028の報告はASCO2017にさかのぼる。

USにおける多施設共同のPembrolizumab single armの医師主導研究のようだ。

つまり製薬会社による治験ではないという事?(スポンサーかどうかは不明だが)。

 

結果、免疫応答発現が低い(AとB)、免疫応答が高い(DとE)、血管新生が豊富なCの5つのグループに分かれたとの事。

グループEでTcellと濾胞樹状細胞が多く、特にB細胞が豊富な三次リンパ様構造(Tertiary lymphoid structures: TLS)が見られていた。

 

このB-cell richなクラスEではpembrolizumabの治療効果が非常によく、免疫チェックポイント治療薬のアプローチが困難であると言われていた骨軟部腫瘍において一定のpopulationで効果があるという可能性を見出したものとなるだろう。まさか骨軟部肉腫においてICIでCRが取れる症例群がいるとは思わなかった。

このグループEは全症例496症例中82例(16.5%)ではあるが、いままで標準となる治療に乏しいこの癌腫において、一定の効果を見いだせる可能性を見出したのは大きい。

 

非常に興味深いのは、B-cellはCD8+Tの分化にも関われば、抗原情報を得て獲得免疫から抗体を産生するリンパ球。これが3次リンパ様構造(TLS)を作り出して腫瘍局所に存在しているとの事。このTLSというのは、いわゆる腫瘍組織におけるいリンパ球の前線基地のようなもの。これがあるという事は、その腫瘍において腫瘍特異的なT-cellが反応しているという根拠により近づく。加えて、このT-cellが疲弊しているのであれば、その疲弊状態を解除する事により再度、生体内での抗腫瘍活性を見いだせるのかもしれない。

やはり研究者として興味を持つのが、TLSの存在である。

 

TLSにmemory likeなCD8+T-cellや今回のB-cellなどが存在する。これはICIsの治療効果に相関する可能性があるという事はなかなか臨床試験の結果に結びついていなかった。

このTLSが存在している可能性の高い初期の段階で治療介入する事で腫瘍の悪性化を進める前に叩ききる事も可能になるのではないか?と考えてしまう。

 

健常人での生体内では日常的に癌細胞が発現しては、生体内の免疫機構に感作され排除されている。腫瘍近傍でこのTLSがあるのが早期がんであるというデータがより一層立証されれば、早期における治療介入が、遠隔転移阻止、Ⅳ期にさせない治療戦略上でも大事になってくる・・という可能性を感じさせる。