腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

【基礎】マクロファージを働かせ免疫チェックポイント阻害薬の効果を上げられるかの検証

あくまでもマウスレベルでの検討であるため、まだまだ臨床への道は遠いかもしれないが、腫瘍免疫を司る上で欠かせないTumor associated macrophage(TAM)について触れている興味深い文献があった。

通常、このマクロファージはその表現型の違いからM1タイプ、M2タイプと言われている。厳密には、この分け方は正しくは無いという学説も多い。このM1⇔M2は状況によって変わり、M1タイプであれば腫瘍抗原などを貪食し、抗原情報を提示する上で重要な役割を担い、M2タイプは腫瘍環境を免疫抑制状態にさせて生体内の免疫機構から逃避させるようなメカニズムを持つとも言われている。

 

単純は話で、このM2タイプをM1に戻してやれば、免疫チェックポイント阻害薬も効きやすくなるのではないか?という仮説の基で行われている。

 

Matrix-targeting immunotherapy controls tumor growth and spread by switching macrophage phenotype.

[Cancer Immunol Res. 2020 Jan 15]

【Reserch Question】

・免疫抑制のM2マクロファージをM1マクロファージに転換するには?

・腫瘍微小環境における免疫抑制状態を解除するにはどうしたらよいのか?

・免疫チェックポイント阻害薬の効果を上げるにはどうしたらよいか?

 

【内容】オックスフォード大学からの報告

 

免疫チェックポイント阻害薬単剤での効果は限定的である。それは腫瘍微小環境において免疫抑制状態を作り出す事により免疫監視機構から逃れている事も理由の一つとして言われている。この報告は、マウスの乳腺腫瘍細胞の同署移植からなる乳癌原発モデルで実験的に調べている。健常なヒトでは発現していないが癌患者で特異的に発現し予後不良因子として知られるマトリックス分子であるテネイシンCに着目して腫瘍微小環境の免疫状態を調べているものだ。

 

このhost(宿主)由来のテネイシンCは抗腫瘍マクロファージ(M1φ)動員に寄与しており腫瘍免疫を促進したが、マクロファージ側を操作し免疫抑制型の腫瘍関連マクロファージ(M2φ)に分極に分極すると、このテネイシンCを用いてhostの免疫防御を破綻させたとの事。

 

一方でtoll like receptor 4のテネイシンC活性化をある抗体(抗FDG抗体)でブロックする事で、試験管レベルではあるが、マクロファージの表現型スイッチをM2タイプからM1タイプに切り替えることが分かった。またマウスの生体内では腫瘍の増殖と肺転移を抑制し、今までの抗PD-L1抗体の治療効果に比べて高い併用効果を示したとの事。

このテネイシンCを標的化しマクロファージに抗腫瘍活性を示すように転換する事と免疫チェックポイント阻害薬の併用は乳癌で有望な可能性がある。

 

この団体の過去の検証では、テネイシンCが低く、M2マクロファージの発現も低い症例(ヒト)で10年に渡る延命を達成していた症例が35例もあったとの事(155例中)。

これを誘導することが出来れば、腫瘍と免疫の関係を排除相や平衡相にシフトできる概念に通じるのかもしれない。より深い今後の検証とヒトにおける検証もみてみたいものである。

 

【つっこみどころ】

・M2→M1の転換がこのテネイシンCだけでまかなわれているのか・・?

・TLR4発現細胞を抑制する事による弊害もあるかもしれない

・この抗FDG抗体における安全性が見えない点

・抗PD-L1抗体+抗FDG抗体では完全に腫瘍を消し切れていない。このままでどこまで生存延長をはかれるかがまだ分からない