腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

膀胱癌における免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

膀胱癌はもともと薬物治療による選択肢が少ないと言われている。

昨年あたりから免疫チェックポイントがプラチナ製剤を含む治療の後に使えるような状況になっては来ているが、まだ治療効果は限定的でもある。

免疫チェックポイント阻害薬単剤での治療の限界が言われてきている中、

どういう方向性であるのかをまとめている韓国からの総説だ。

 

Current Status and Future Perspectives of Immunotherapy for Locally Advanced or Metastatic Urothelial Carcinoma: A Comprehensive Review.

Cancers (Basel). 2020 Jan 13;12(1).】(オープンアクセス)

Kim TJ1, Cho KS2, Koo KC2.

Department of Urology, CHA University College of Medicine, CHA Bundang Medical Center, Seongnam 13496, Korea.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31940998

 インパクトファクター:6.162

【臨床上の問題点】

・膀胱癌における免疫チェックポイント阻害薬の進捗状況は?

・膀胱癌における薬物治療の方向性は?

 

【内容】

膀胱癌における免疫チェックポイント阻害薬の方向性について記載されている総説。

驚愕だったのは、膀胱癌における再発転移膀胱癌(プラチナ抵抗性)においては海外では抗PD-1抗体で2剤、抗PD-L1抗体で2剤すでに承認されている・・。という実態である。

日本ではプラチナ抵抗性の2ndLineのpembrolizumabしか適応を有していない現状だ。

 

2017年には各々の治療が適応を取っているというのだから不思議なものだ。

現在、日本の臨床の場ではpembrolizumabしか使えないが、海外ではこのpembrolizumabも1st Lineでプラチナ不耐容症例、もしくはCPS≧10で使用できるという内容にもなっている。1stLineでプラチナ不耐容症例・・というのはイメージがわかない(Neo-adjuvantで使ったとしても抵抗性にはならないし)

 

日本の薬物治療はやはり海外との乖離が進んでいると実感する内容でもある。

国民皆保険で医療費にうるさい日本では類薬は承認しづらいとは考えるが)

 

またこの論文上では、

ICI+化学療法、ICI+ICI、ICI+チロシンキナーゼ阻害剤などの検証を進めている事もTableでまとめている(詳細は論文をご覧ください)

 

また膀胱癌では繊維化が進んでいる臓器であることもしられている。FGFR(fibroblast growth factor receptor)をターゲットとした阻害剤にICIを併用する開発も進めている。

 

それ以外では、膀胱癌では、かねてより行われていたBCG注射+ICIの可能性も模索されていると共に、この癌腫は外部の抗原に暴露されやすい部位でもあるため、DNA Dameged Repair Geneが変異をしている事もある。その症例を対象としたDDR阻害剤とICIとの併用の可能性なども述べている。

 

もともと治療選択肢が乏しかったこの癌腫において、これだけ多くのアプローチが重ねられているのかと感じさせられる総説となっている。

現在使われているPembrolizumab単剤での治療効果は限定的であり、コストが効果に見合っていないのではないかと揶揄されていた。biomarkerの検索もさることながら、効かない症例を効かせるようにするための併用戦略もやはり重要である。