軟部肉腫のグルタミン依存性に断つことによる治療応用の可能性
軟部腫瘍に対する私の興味は尽きない。
軟部肉腫の予後の悪さをどうにかしたいという気持ちもあるが、このような肉腫ができるという事は、そもそも生体内で相当な異常がない限り発現しないだろうからだ。
となると、その異常はいったい何なのか?これがわかれば治療応用にも通じる。
今回の報告は、その根底となる軟部腫瘍が増大するにはどのような因子が必要なのかをマウスモデルで検証している。
Targeting glutamine metabolism slows soft tissue sarcoma growth.
【Nat Commun. 2020 Jan 24;11(1):498】
【ポイント】
・骨格筋と腫瘍増大のメカニズムについて
・グルタミンが腫瘍代謝に与える影響について
・グルタミン依存性腫瘍に対する治療アプローチは?
【内容】
腫瘍細胞は正常細胞よりも糖代謝が盛んであり、細胞代謝に必要なグルタミンを利用して急速に細胞増殖をさせる。このグルタミンに対する腫瘍の依存性は腫瘍微小環境やグルタミン欠乏下に対する反応性など不明な点が多い。
この報告では、マウスモデルにおいて、難治性の軟部肉腫(STS)におけるグルタミン代謝のかかわりについて検討している。
STSでグルタミナーゼ(GLS)レベルが上昇しているマウスの肉腫ではグルタミン欠乏などによる飢餓状態に敏感である事が確認された。
このGLSに対する阻害剤であるテラグレナスタット(CB-839)を使用する事によって未分化多形肉腫の成長を阻害出来たとの事。CB-839が治療候補の可能性がある事を示している。ただしこの薬剤が腫瘍微小環境で作用するには、まだまだ検討せねばならない細かい因子同定が必要であり、まだまだ検証は必要になるだろう。
またGLS阻害だけでは完全制御は困難だろう。
この報告では、CB-839がDNA Dameged Repairとも関わる事も示されている。
最近の報告では腎細胞癌においてPARP阻害剤との相乗効果を示す可能性も示唆している。
肉腫ができる際には、やはり異常な遺伝子によるタンパクの積み重ねにより生じる経路が知られている。
となるとこのDDR阻害剤であるPARP阻害剤との併用は相性が良いかもしれない。
個人的にはGLS阻害剤の毒性が気になるところではあるが、この治療も一つの可能性になってもらいたいと感じる。
また、概念的におもしろいのが、軟部腫瘍と骨格筋の関連でもある。
骨格筋はグルタミン生成の70%を占めている。よく耳にするサルコペニアなどは骨格筋減少に伴う生理的現象でもあるが、骨格筋の低下はグルタミン欠乏を引き起こし、特にGLSなどの個体においては免疫と腫瘍のバランスを破綻させ一気に腫瘍増大にシフトさせる事にもつながるかもしれない。
【引用】Glutamine synthetase in muscle is required for glutamine production during fasting and extrahepatic ammonia detoxification. 【J. Biol. Chem. 285, 9516 (2010).】
となると、骨格筋を増強する事により腫瘍を抑制できるという概念は、腫瘍によるグルタミン依存性とも密接な関連があるのかもしれない。
グルタミン飢餓状態になってしまうと正常組織や周辺の免疫環境が悪化する事により腫瘍増殖が早まるのかもしれない。
今回はマウスモデルでの検証にはなるが一方で骨格筋量が保たれている症例での軟部腫瘍症例の予後がどうなっているのか?そもそも腫瘍増大がどうなっているのかなど興味が尽きない。
まずは筋トレして骨格筋を強化しておこ~っと。
と思わせる報告でもあった。