腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

NSCLCにおける抗PD-L1抗体のAtezolizumabで治療恩恵を受ける症例はどういう症例か?

Development and validation of a prognostic model for patients with advanced lung cancer treated with the immune checkpoint inhibitor atezolizumab.

【雑誌】 Clin Cancer Res. 2020 Feb 21. pii: clincanres.2968.2019

https://clincancerres.aacrjournals.org/content/early/2020/02/21/1078-0432.CCR-19-2968.long

インパクトファクター2019】10.199

【アクセス】有料(マニュスクリプト

【著者】Hopkins AM(Flinders大学 オーストラリア)

 

【目的】

NSCLCにおけるAtezolizumab(抗PD-L1抗体)単剤での患者の予後予測のベーライン評価を検証した

 

【要約】

・2つのPhaseⅢ試験を解析(OAK試験、POPLAR試験)とPhaseⅡ(BIRCH試験とFIR試験)での解析

・ベースラインにおいてはCRPがOSと最も相関していた

・予後予測はCRPLDHとNLRとALBとPD-L1発現、PSと転移診断時間と転移部位数によって最適化された。予後グループのOSは有意に異なっていた。

OSの中央値は低リスクから高リスクにおいて、24ヵ月から3ヵ月の開きがあった。

PFS中央値は低リスクから高リスクにおいて、5ヵ月から1ヵ月であった。

AtezolozumabのDocetaxelに対するClinical benefitは低リスク群で最大だった。

高リスク群ではメリットが無かった。

 

私見

いわゆるベースライン評価を抗PD-L1抗体で行った解析。一般的なclinical parameterで分類わけを行っている。OSに影響を与えた因子がベースラインのCRPのみ・・というのはちょっとどうかと思うが・・。となると単に腫瘍側の因子に引っ張られているだけなのか?とも一瞬感じてしまった。

予後予測に関してはデータをみる限り不思議なくらいに層別化はされていた。

好酸球なども項目には入っていたようだが引っかからなかったようだ。

抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体で何か違いはあるのだろうか?

Clinical parameterで層別化することが出来るのは良いのだが、カットオフの違いや抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体などの兼ね合いもありちょっと判断が難しい。

まずは、臨床上使えるNSCLCにおけるPembrolizumab単剤において、Clinical parameterでどのように層別化ができるのかをやってもらいたいものだ。

免疫チェックポイントのirAE予測のbiomarkerの可能性?

Immune-related adverse events are clustered into distinct subtypes by T-cell profiling before and early after anti-PD-1 treatment.

【雑誌】 Oncoimmunology. 2020 Feb 2;9(1):1722023.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/2162402X.2020.1722023

インパクトファクター2019】5.333

【アクセス】open access

【著者】Kim KH 韓国

【目的】

免疫学的有害事象(irAE)はどのような症例でおこるのか?ベースラインと1週時点での末梢血(PBMC)のT-cellをフローサイトメトリー(FACS)で解析

 

【要約】

・irAEを生じた症例の末梢血におけるT-cellの分画をFACSで調べた

・抗PD-1抗体(胸腺上皮腫瘍31例とNACLC60例)で7日後のPBMCを利用

・irAEは45例で発症。G3は13例だった

・重度のirAEを生じた症例は

  • ベースラインから治療後でeTregの有意な減少が確認
  • ベースラインから治療後でTh17/Th1の高比率
  • ベースラインから治療後でPD-1+CD8+TのKi-67発現の増加

となっており、T-cellのクラスタリング解析においては、

irAE症例ではTh17関連、TNF関連、CD8関連Treg(補償)、CD8関連Treg(非保障)の4つのサブタイプに分類された。

重度のirAEは上記4つがbiomarkerの可能性がある

・Treg(補償)は post/preでeTregが高くirAEはG1~G2が多い

・Treg(非補償)はpostでeTregを増やさない一方でKi67 post/preがほぼG3

つまり、eTregが増加していない一方でCD8+Tが増強している場合に重篤なirAEが発症する可能性が考えられている。

・心筋炎などの重篤なirAEは一部のサブグループに存在。

・肝炎や肺炎や甲状腺機能障害は複数のサブグループに存在していた

・今回の解析では特定のirAEがどのサブグループに属するかまでは結論付けられなかった

・G1~2のirAEのNSCLCでは良好なORRとPFSを示していた。

・重度のirAEは治療開始後3カ月以内に発現(中央値は4週)

 

私見

投与1週目・・というのはかなり早いような気がするが・・。

重篤なirAEが比較的早いタイミングで生じるため、1週目時点のかなり早いタイミングで免疫反応が起こっているのではないかとの事で1週目でみているようだ。

Th17は自己免疫性疾患の指標となっているため、その惹起がirAEに相関する可能性はあるかもしれない。Th17/Th1の比率は自己免疫性疾患発症の指標としても知られる。

またTNFαも腸管粘膜の炎症時に関わるためこの増加も考えられる(おそらくは大腸炎?)。これらの各々のパラメーターがどのirAEに紐づいているのかをみていればよりわかりやすかったとも考えられる。(おそらくはむずかしいのだろう)

Discussionにも記載されているが、B細胞、自己抗体、血清サイトカインなども絡んでいるため必ずしもT-cell側だけのeffectではない可能性もあるところは注意したい。

多癌腫でも再現性を確認する必要はあるかもしれないが、まずはFACSを保険償還しない限りは実臨床では検証する事は不可能だろう。あくまでも現段階では研究的なアプローチになる。

肺の細菌叢が癌や免疫に与える影響とは?

【タイトル】The Influence of Lung Microbiota on Lung Carcinogenesis, Immunity, and Immunotherapy.

 https://www.cell.com/trends/cancer/fulltext/S2405-8033(19)30265-1

【雑誌】Trends Cancer. 2020 Feb;6(2):86-97(Cell Press系)

 

インパクトファクター】8.884(2020)

 

【著者】Ramírez-Labrada AG(スペイン)

 

【目的】

肺のmicrobiomeが宿主の免疫状態にどう関連しているか?を調査

 

【要約】

・肺のmicrobiomeは肺の発癌と他の原発性癌からの肺転移の確立に関与している

・肺のmicrobiomeは慢性炎症や癌遺伝子などの点で悪性腫瘍のリスクを調整する可能性

・ICIs使用中に抗生剤で治療された症例はOSやPFSが短くなってしまう

・腸内細菌叢のprofilingで腫瘍抑制と免疫療法の反応性に関わる菌も同定されている

・細菌叢は発癌プロセルや癌細胞における免疫応答の両方のモジュレーターの可能性

・腸内細菌叢と肺微生物叢は異なる可能性があり、ICI治療における肺炎症が特定の微生物の存在に依存するかどうかはまだ不明。

 

私見

腸内細菌叢における抗生剤使用がICIの治療効果に関わるという報告は結構多く出ている。通常考えると、抗生剤使用による腸内細菌叢の破壊により免疫能が低下するためと考えられる。

実際に抗生剤の使用は腸内細菌叢の破綻を来して下痢を起こさせてしまう。

各々の臓器に生着している細菌叢がどこまで免疫能に関わり発癌やその抑制に寄与しているのかは今もなお研究が進んでいるのであろうが、なかなか宿主側因子である細菌叢を改善するというのは容易ではない。

現時点での理解としては、免疫チェックポイント阻害薬使用時にはなるべく抗生剤使用は避けるべきという点だろうか。ただし実臨床ではいつどのタイミングで感染症に罹患するかは分からない事もあり、今後どう考えるのか悩ましいところである。

食道癌に初めて適応を取ったNivolumab(オプジーボ)

ついにですが、食道癌でも抗PD-1抗体の「Nivolumab:オプジーボ」が適応を取りました。2/21付での適応取得となります。

化学療法で治療失敗した症例に対して使えるようになっています。

現状での食道癌の標準療法はCF療法(5-FU+CDDP)ですので、この治療が失敗した症例に対して使えるようになります。

実際にATTRACTIO03試験でNivolumabの有効性が確認されたようです。

この試験のハイライトは下記の通り

①CF療法後のNivolumab vs タキサン系(ドセタキセルまたはパクリタキセル)の

PhaseⅢ試験

②主要エンドポイントはOSでHR=0.77 95%Cl:0.62-0.96でP=0.019 OS中央値を2.5ヵ月改善

③12ヵ月時点のOSは47%(95%CI:40〜54)で18ヵ月時点のOSは31%(95%CI:24〜37)。化学療法群はそれぞれ34%(95%CI: 28〜41)と21%(95%CI:15〜27)であった。

 

 

まずは、選択肢の少ない食道癌での適応を祝いたいと思います。

 

ですが、まだ効果は限定的。そのため次のステップとしては、より早期のLineやconbinationでの検証が求められるでしょう。

 

またPembrolizumabの適応取得が気になるところでもあります。

腎細胞癌におけるNivolumab+Ipilimumab併用療法で3年半の生存率が50%超え!

ASCO-GUで発表になった、腎細胞癌におけるNivolumab+Ipilimumabの治療が当時、標準治療だったSunitinibに対して42ヵ月時点でのOSで勝っていたという発表がOralでされていた。

その内容がBristol myers squibb社のプレスリリースでも大々的に出ている


腎細胞癌は他の癌腫に比べて比較的増悪進行が緩やかであることは知られているが、

42ヵ月(3年半)の時点で半数の症例が確認できている事は喜ばしい事だ。

対象はIMDCリスク分類という基準でリスク因子を層別化し、intermediate/poorの症例だけを対象としている群での42ヵ月のOSだ。

Ipilimumab+Nivolumab群では52%に対してsunitinib群では39%だったとの事。

さらに併用群でCR(完全奏効)が得られた症例での42ヵ月OSは80%だったという。

この治療群でのCR率は9%となっている。

ここまで来ると5年までフォローアップを行っていくことになるかもしれないが、

このような免疫チェックポイント阻害薬の評価は長期にどのような影響を及ぼすのかを観察する事にあると考えている。

企業によっては観察期間を2年で切っているところもあるが、それでは臨床サイドでは長期に見てどういうベネフィットがあるかを見極められない。

 

この併用療法はその毒性の高さと特殊性から色々と言われることが多いだろうが、負けずに結果を出し続けて欲しい。Nivolumabは国内初の薬剤でもあり、免疫チェックポイント合戦で生き抜くためには、この併用療法にかかっていると言えるだろう。

放射線と免疫チェックポイント阻害薬 アブスコパル効果はどういう症例で引き起こされる?

個人的にはツボった報告。放射線治療(RT)は照射の際に骨髄にもあたってしまうために骨髄抑制を来してしまう。過去調べていた際にはリンパ球においても、放射線後とベースラインとを比較すると、ベースラインまでリンパ球が戻らないというケースも多く存在する。本来ならRT+免疫療法(ICI)も造血能を落としてしまう観点から考えて、どう影響を及ぼすのかが気になっていた。

化学療法やRTによる腫瘍抗原暴露に伴うICIの効果増強?

化学療法やRTによる骨髄抑制によるICIの効果抑制?

色々な可能性が考えられるが、現状、臨床では化学療法やRTにICIを併用する試験は有望な結果を示してきている。骨髄抑制を上回る効果があったりするのか・・?

そうもやもやしている時に下記の論文をみかけた。

 

Absolute Lymphocyte Count Predicts Abscopal Responses and Outcomes in Patients Receiving Combined Immunotherapy and Radiotherapy: A prospective-retrospective analysis of 3 phase I/II Trials.

Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2020 Feb 6. pii: S0360-3016(20)30158-9】

インパクトファクター:6.203】

ICI+RTの際に一時期言われていた「abscopal effect(アブスコパル効果)」

これはRT照射部位による腫瘍縮小は当然だが、非照射部位においても腫瘍縮小が見込めるといった反応である。

仮説ではあるが、ICI投与により活性状態を有したCD8+T細胞が腫瘍部位の抗原を認識する事により転移巣(非照射部位)の抗原も認知し抗腫瘍効果を示す(可能性)というメカニズムだ。このeffectが見られる要因はいったい何なのか?

それについて過去行われていた試験を紐解いて解析を行っている報告だ。

 

【内容】

RT+ICIsの3つのPhaseⅠ/Ⅱ試験の記録を調べ、アブスコパル効果の予測因子を調べている。

全ての症例はICIs+RTを受けており、少なくとも1つは非照射部位があることと、RT照野外での反応を評価している。

全体で153例の症例を解析している(追跡期間の中央値は21.1ヵ月だった)

NSCLCが62例、SCLCが25例、頭頸部癌が16例、腎細胞癌が13例であった。

免疫療法は、イピリムマブが98例、ペンブロリズマブが55例含まれていた。

RT照射後の絶対リンパ球数(ALC)が高い症例でアブスコパル効果が高かった。

ALCが中央値よりも高い症例で34.2%

ALCが中央値よりも低い症例で3.9%であった。(P<0.001)

RT前のALCにおいては、

ALCが中央値よりも高い症例で30.35%

ALCが中央値よりも低い症例で7.8%(P = 0.0004)。

Cox多変量解析により、RT後のALCの低下はPFSの低下(p = 0.009)およびOS(p = 0.026)にも関連していることが確認された。

 

つまりもともとの私の仮説の通り、ベースラインのリンパ球数を維持しつつ、RT照射後のリンパ球数を維持できている症例が有望という事になる。

となると、元々のベースラインの造血能の評価とRT実施後の造血能の維持の観点から、RT照射の線量やスケジュールも検討していく必要性を感じさせる。

抗原提示をさせる程度のRTであればそこまで多くの線量は必要が無いはずで、さらに局所に線量を絞る事により骨髄へのダメージを限定的にできる可能性もあるかもしれない。線量や照射スケジュールや部位変更で、ベースラインの造血能維持とアブスコパル効果の反応性がさらに増加するようであるのならば非常に興味深い。

おそらくこのような形で原発も転移巣も免疫系が認識ができるのなら長期にわたり治療効果を維持する事も可能な気がする。

抗PD-1抗体でCRが取れた症例はやめることが出来るのか?(melanomaにおける検証)

実際に臨床の場で免疫チェックポイント阻害薬使用において悩むケースとして、

仮にCR(complete response)が取れたとして、いつまで治療をするべきか?

また、治療中止後に再発してしまった場合にどうするべきか?

という所が現時点でも大きな課題となっているだろう。

今回、報告された論文は、memorial slone kettaling cancer centerから報告されているもので、J clin oncolに掲載された内容だ。 

 

Long-Term Outcomes and Responses to Retreatment in Patients With Melanoma Treated With PD-1 Blockade.J Clin Oncol. 2020 Feb 13:JCO1901464】

https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.19.01464?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%3dpubmed

 

治療期間が長いmelanoma患者の抗PD-1抗体治療中止後の再発症例における抗PD-1抗体再治療の有用性を評価している。(抗CTLA-4抗体のIplimumabの使用は無い)

抗PD-1抗体単剤治療を中止して少なくとも3ヵ月はフォローアップを行っている(396例)

CRのOSはCRが得られてからの期間を示している。

今回の報告ではCRは、396人の患者のうち102人という結果(25.8%)。

CRが取れた症例でCR時から21.1ヵ月再発が無かった症例においては3年後でのoff treatmentの可能性は72.1%であった。(治療期間と再発リスクとの間に有意な関連は無かった)

多変量解析では、CRはM1b疾患と、皮膚または粘膜または先端の原色と関連。

PD後に再治療された78/396のうち、

  • 抗PD-1治療単剤でのを受けた再治療患者の奏効は5/34
  • 抗PD-1抗体+Ipilimumab併用での奏効は11/44

で反応が見られた。

 

このコホートではほとんどの症例でCR達成時点で治療を中止している。

ほとんどのCRは維持できていたが、3年フォローにおける治療失敗の確率は27%。

抗PD-1抗体や抗CTLA-4による再治療の反応性は不十分であった。

 

私見

・このコホートで特徴的なのは、BMIやNLRやALCやTMBをちゃんと測定しており、それを患者背景の所にきちんと載せて解析対象にしている点が興味深い。

(ただし結果そのものにはこれらの因子は引っかかってきてはいない)

・CR loss症例に対する再投与で抗PD-1抗体のre-challengeの効果は限定的。また抗CTLA-4抗体を併用した所で、この治療効果も限定的。この現状から考えるに、CR後のlossの危険性を考えると、その際の治療薬は何が優先されるべきかが分からない以上、手探りとなってしまう事が危惧される。

 

過去、CR症例で治療をstopしたという報告はcase reportも含めると色々出ているようではある。ただ、決定打となるデータも乏しく、中にはCRもlossしている症例も結構いた。現状ではCRが取れた後は、患者と相談して決める事にはなるだろうが、CR後の再発をどうケアしていくべきなのか?というのは非常に悩ましい所は解決されていないと感じる。