腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

抗PD-1抗体でCRが取れた症例はやめることが出来るのか?(melanomaにおける検証)

実際に臨床の場で免疫チェックポイント阻害薬使用において悩むケースとして、

仮にCR(complete response)が取れたとして、いつまで治療をするべきか?

また、治療中止後に再発してしまった場合にどうするべきか?

という所が現時点でも大きな課題となっているだろう。

今回、報告された論文は、memorial slone kettaling cancer centerから報告されているもので、J clin oncolに掲載された内容だ。 

 

Long-Term Outcomes and Responses to Retreatment in Patients With Melanoma Treated With PD-1 Blockade.J Clin Oncol. 2020 Feb 13:JCO1901464】

https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.19.01464?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%3dpubmed

 

治療期間が長いmelanoma患者の抗PD-1抗体治療中止後の再発症例における抗PD-1抗体再治療の有用性を評価している。(抗CTLA-4抗体のIplimumabの使用は無い)

抗PD-1抗体単剤治療を中止して少なくとも3ヵ月はフォローアップを行っている(396例)

CRのOSはCRが得られてからの期間を示している。

今回の報告ではCRは、396人の患者のうち102人という結果(25.8%)。

CRが取れた症例でCR時から21.1ヵ月再発が無かった症例においては3年後でのoff treatmentの可能性は72.1%であった。(治療期間と再発リスクとの間に有意な関連は無かった)

多変量解析では、CRはM1b疾患と、皮膚または粘膜または先端の原色と関連。

PD後に再治療された78/396のうち、

  • 抗PD-1治療単剤でのを受けた再治療患者の奏効は5/34
  • 抗PD-1抗体+Ipilimumab併用での奏効は11/44

で反応が見られた。

 

このコホートではほとんどの症例でCR達成時点で治療を中止している。

ほとんどのCRは維持できていたが、3年フォローにおける治療失敗の確率は27%。

抗PD-1抗体や抗CTLA-4による再治療の反応性は不十分であった。

 

私見

・このコホートで特徴的なのは、BMIやNLRやALCやTMBをちゃんと測定しており、それを患者背景の所にきちんと載せて解析対象にしている点が興味深い。

(ただし結果そのものにはこれらの因子は引っかかってきてはいない)

・CR loss症例に対する再投与で抗PD-1抗体のre-challengeの効果は限定的。また抗CTLA-4抗体を併用した所で、この治療効果も限定的。この現状から考えるに、CR後のlossの危険性を考えると、その際の治療薬は何が優先されるべきかが分からない以上、手探りとなってしまう事が危惧される。

 

過去、CR症例で治療をstopしたという報告はcase reportも含めると色々出ているようではある。ただ、決定打となるデータも乏しく、中にはCRもlossしている症例も結構いた。現状ではCRが取れた後は、患者と相談して決める事にはなるだろうが、CR後の再発をどうケアしていくべきなのか?というのは非常に悩ましい所は解決されていないと感じる。