腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

飛ばしニュース さすがNHK!「オプジーボ効く患者を高精度で見分ける手法発見」の罠

一瞬目を疑った。このニュースを見た事である。

私はそれなりに海外ニュースや国内の臨床試験にも目を通している。

 

現在の癌免疫療法のパイオニアである抗PD-1抗体「オプジーボ(Nivolumab)」の試験も追える範囲で臨床を変える試験などの動向を確認しているつもりだった。

 

直近では肺癌における抗PD-1抗体+抗CTLA-4抗体、またはこのレジメンに初期だけ化学療法を併用するレジメンが開発されているということくらいしか知らなかった。

 

 

NHKの記事を見る限り、今回報告になっていものは少数例での検証である事・・くらいしかわからず、国内の検証なのだろうなとは感じた。

 

本庶先生の研究室で手掛けているものとして、唯一見つけた医師主導の研究は・・、

下記のNivolumab+BezafibrateのPhaseⅠ試験のみ。

既治療進行非小細胞肺癌を対象とした免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブとベザフィブラート併用の第I相医師主導治験【UMIN】

https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000033998

この結果はどこの学会でもまだ公表されてはいない。

 

このオプジーボの効果判定までできる可能性のものを見出したとの事なのでよほどのインパクトなのだろうが・・?いったいなんなのだろう?

 

おそらく宿主側の因子を見てくるものだろうという事は、以前、ある学会に参加した時の本庶先生のご講演の中で大体垣間見えていた。

だが、まだ結果が伴うような臨床試験データなどは出ていなかったと記憶している。

 

そうこうして調べている間に下記の論文を見つけた

f:id:takatakagogo:20200202122213p:plain

本庶先生の研究室から発表はされてはいるが、autherを見る限り別の研究者。

また、別にimpact factorが全てではないが、JCI insightは6.014・・。

臨床を変えるような指標がこんなpaperに?と一瞬思ってしまった。

 

この報告の概要だが、「腫瘍側の因子」ではなく「host側の因子」に着目をした報告。

Nivolumabによる治療前後での血漿代謝産物およびエネルギー代謝を含むT-cellの特性を調査しているもの。

55例で解析しており血漿代謝物とT-cellマーカーとの関連性を調べている。

ヒトの肺癌サンプルを用いて実験をしており、Nivolumab投与前のベースラインでFACSMS/MS解析を実施している。そして、Nivo3回投与時点で再度サンプルを取得しベースラインと比較するという方法を取っている。

 

報道で出されていた25症例というresponderとも一致するので、やはりこの報告をベースとしていると考えられる。

 

この試験の結果として、T-cellの代謝産物としてモニタリングの候補に挙がったのが、

①ミクロビオーム(馬尿酸)

脂肪酸酸化(ブチリルカルニチン

③酸化還元(シスチン)

④グルタチオンジスルフィド

これらに由来する因子が、Nivolumabの高い奏効率(AUC = 0.91)と相関していた。

 

同様に、この4つのT細胞マーカーとミトコンドリア活性化に関連するマーカー(PGC-1発現および活性酸素種)、そしてCD8 + PD-1+highおよびCD4 + T細胞の頻度の組み合わせは、さらに高い予測値を示したとされている(AUC = 0.96)。

 

これらのマーカーの中でも4つのT-cellマーカーを予測的に選択して検証した前向き検証(24例)ではNivoの高い治療効果に相関していた(AUC = 0.92

 

responderでは投与前から活性化しやすいT細胞の割合が高く、投与後は疲弊した物とは別のnaiveなT細胞が増えていた。一方でnon-responderでは疲弊状態が進んでいるT-cellが多かったという報告となっている。

 

確かに既報や臨床の場では、ICIでのレスポンダーではリンパ球数が増加しているというような印象もある。また論文上の報告でもリンパ球が増加している症例では予後が良好であるという報告も多く出てきている。

 

どちらかというと、状態が良くなって造血能が保たれた状態なので、特異的なリンパ球が増加してくるのかな~と思っていたが・・。

本報告が正しいのであれば、抗PD-1抗体がリンパ球数を増やしているというようなイメージとなる。となると、memoryされているために腫瘍特異的なリンパ球増加に直接寄与している・・という事なのか?

 

ちょっと懐疑的ではあるが、その機序についても今後調べていってみようと思う。

 

個人的には、hostの状態がこの免疫療法の効果を左右するという点で、非常に興味深い研究でもあり、年齢などでは層別化が図る事は容易ではないという事を物語ってくれている報告だろう。本庶先生の研究室だから・・という訳ではなく、今後はこのような指標で見ていかねば、どの症例に役立つのか?というのが真にわからないだろうからだ。

 

ただ、一つ言える事と言えば、今回の報告は自験例における結果であり、すぐに明日からの臨床に応用できるようなものではない。

 

今後は、前向き検証で再現性をみる必要もあれば、血球能を見る上で、FACSやMS-MS解析を介さない保険診療下でのパラメーターに変換しなければならない。

 

期待が持てるだけに今後の検証がまだ必要であるというのは本研究されている方々も重々承知のはずだろう。ただそれを「飛ばし記事」のように発表するマスメディアの質の低さには辟易する。

 

NHKよりも、まだ読売新聞社の取り上げ方の方が良いとも感じる

このマスメディアも、高い受信料と高いスタッフ報酬を誇る前に情報の「質」を考えてもらいたいものだ。