腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

ASCO2019アップデート Driver mutation無しのⅣ期NSCLCにおける化学療法のガイドライン

肺癌における化学療法も2017年から非常に多様化してきた。

ASCOにも昨年参加したが、もうDriver mutationか免疫チェックポイント阻害薬の話題ばかりでプラチナダブレットの話題は全くもってナリをひそめたようなものになってきている。ここ数年で治療体系も非常に大きく変わったものだと思う。

 

その影響を受けてかASCOも2017年に公開していたⅣ期対象のNSCLC(Driver mutationを伴わない対象)のガイドラインを公開した。

Therapy for Stage IV Non-Small-Cell Lung Cancer Without Driver Alterations: ASCO and OH (CCO) Joint Guideline Update.

[J Clin Oncol. 2020 Jan 28:JCO1903022]

https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.19.03022?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%3dpubmed

 

これは2019年までのエビデンス(臨床を変える試験やランダム化PhaseⅢをベース)をふまえてrecommendationを行っているもの。とはいってもあくまで参考だろう。

欧米ではDriver mutationが少ない事もあるし、EGFR-TKIも多様化しているので別仕立てでガイドラインを公開する予定らしい。

 

私はASCO正会員なのでみれるが、これは一般公開もされているようで、一般公開されている部分を引用させて頂いている。

 

 

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【引用】

https://www.asco.org/sites/new-www.asco.org/files/content-files/practice-and-guidelines/documents/2020-NSCLC-Non-Driver-Alterations-Summary-Table.pdf


英語でわんさか書かれているが、2017年からの更新ポイントは以下の通り。


①Driver mutationのない1stLineでは、PD-L1測定でTumorのPD-L1≧50%以上でPembrolizumab単剤推奨(SQ、non-SQ問わず)

 

②追加としてPembrolizumab+CBDCA/Pemetrexedか、Atezolizumab+CBDCA/Paclitaxel+bevacizumabか、Atezolizumab+CBDCA/nab-Paclitaxelが可能

 

③非SCCで陰性(0%)または低陽性(1%〜49%)のPD-L1の患者ではPembrolizumab+CBDCA/Pemetrexedを推奨。もしくは今まで通りのプラチナダブレットが推奨される

 

との事。

 

まぁ・・あまり日本における日常診療とは大きく変わらない物ではありそうだ。

一方で2020年以降は、適応がどうなるかわからないがIpilimumab+Nivolumabの併用療法が新しくⅣ期の治療に加わってくる見込みでもある。

 

悲しい事に日本の本庶先生が関わっていた抗PD-1抗体のNivolumabは肺癌領域において現時点では見る影もなくなってきている。肺癌治療の免疫チェックポイント阻害薬のパイオニアだっただけにこの凋落はすさまじいものを感じる。

 

開発競争はアイデア勝負。またそのアイデアに基づく開発に失敗があったとしてもリカバリーをうまくできれば挽回できたかもしれないが、それも上手くいかなかったのがNivolumabの今の立ち位置を決めているとも考えられる。

 

科学的に見て、どーみても抗PD-1抗体同士のPembrolizumabもNivolumabもほぼ同じと考えられる(構造やIgGタイプは多少異なったとしても)。

となると開発と臨床試験の組み立ての結果で差がついちゃったのだろうか・・?

 

ともあれ、現時点でのDriver mutationでのⅣ期NSCLCにおけるレジメンはほぼ画一化されつつある。ただ問題は、Pembrolizumab+化学療法とpembrolizumab単剤。この2剤の使い分けはまだ不明瞭なままだ。治療強度的にも単剤で十分な症例もいるかもしれない。一方でその区分けをするのがPD-L1だけでは心もとない・・。

 

これからの日本は高度な高齢化社会を迎える。薬剤のDosingもしかり、どの症例にどの程度の治療強度でうまく治療を行っていくのかは、喫緊の課題だと感じる。