腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

リンパ球を増やすIL-7製剤と抗PD-1抗体(Keytruda)の新たな可能性

また色々と可能性を模索しているようです。

MSDは結構、新たな治療ストラテジー創出に向けてアグレッシブですね。

 

T-cellに特化したNeoImmuneTech、Inc.という会社と組んで、

Hyleukin-7(NT-17)という製剤と現在、臨床応用されている抗PD-1抗体のKeytrudaと併用する方法でPhaseⅠ/Ⅱにおける固形癌のBasket 試験を組んでいるようです。
 

このNT-17というのは、生体内ではIL-7として反応する製剤。
このIL-7は生体内でリンパ球を増やすことが出来る薬剤でもあります。
疫学的にもリンパ球数が多い程、がん患者の生命予後は改善するという事が言われています。

Association of Lymphopenia With Risk of Mortality Among Adults in the US General Population.

JAMA Netw Open. 2019 Dec 2;2(12):e1916526】

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2756114

この報告によると、リンパ球数やRDWCRPに基づいた免疫血液学的プロファイルの結果、「リンパ球減少は、生存率低下に独立して関連する因子であった。特に赤血球の造血能の低下や炎症レベルの上昇があると、生存率はさらに低下した」と結論づけています。つまり、リンパ球数が多い程、がん患者の生命予後を改善できる可能性があるわけですね。

その観点でIL-7による造血能向上、つまりリンパ球を増加させる事による治療向上を視野に入れられるわけですか・・。

 

このNT-17はすでにPhaseⅠで用量設定も終了しています。面白い事に皮下注射による投与経路なんですね~。

Hyleukin-7(NT-17)はハイロイキンと読むのですね。
 
気になったのは、これを注入するとCRS(サイトカイン放出症候群)が生じるんじゃないかと思いましたが、道も起こっていないようです。(大規模な検証になると不明ですが)
さらにALCが増加するとなると、腫瘍臓器以外の正常臓器に対する有害事象にもつながりそうですが・・。効果と有害事象で相関は取れるのでしょうかね?
 
実際のリンパ球の増加に関してですが、このPhaseⅠの結果で、皮下注射によりベースラインにおけるALC増加も見込めているようです。
興味深いのは、投与3週間後に確認されているとの事。
また、この試験で検証されたすべての用量で、末梢血中のCD4 +およびCD8 +リンパ球サブセット(すなわち、ナイーブ、EM、CMおよびTEMRA)の数を著しく増加させているとの事です。
 
こういう背景がある中、免疫チェックポイント阻害薬との併用を視野に入れたのは開発的に面白そうです。
PD-1+CD8+Tcellは腫瘍特異的である可能性が示唆されている中(完全ではないが)、
リンパ球の絶対数を増やすと共に、疲弊しているT-cellの疲弊解除を抗PD-1抗体で行う・・。なんとなく治療効果も得られそうな気がしますね。
 
この試験をbasket trialで実施する方向性は面白いかと思います。
MSI-highにおける癌腫横断的なものといい、最近は癌腫問わずアプローチをしているところに免疫アプローチの面白さを感じます。
注目していきたいですね。