腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

Docetaxelは前立腺癌の腫瘍免疫微小環境を再構築し免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強する

Docetaxel remodels prostate cancer immune microenvironment and enhances checkpoint inhibitor-based immunotherapy(Docetaxelは前立腺癌の腫瘍免疫微小環境を再構築し免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強する)

【Theranostics. 2022 Jun 27;12(11):4965-4979】

(pubmed )https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35836810/

(journal) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9274752/

(Impact factor)11.556(2022)

(author) Zehua Ma : Shanghai Jiao Tong University

(癌腫) prostate(前立腺癌)

(カテゴリー)化学療法免疫修飾

(目的)前立腺がんのkey drugであるdocetaxelが免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強するかを検証

(方法) トランスクリプトーム解析と病理組織学解析によりdocetaxel治療前後の腫瘍微小環境の変化を調査、またレトロスペクティブコホートで抗PD-1抗体+docetaxelの併用による30例での抗腫瘍効果の検証を行った

(結果)docetaxel治療後に腫瘍浸潤性T細胞が腫瘍局所に誘導されており、トランスクリプトーム解析ではcGAS/STING経路の活性化を確認し、その後IFNシグナルを介してリンパ球の浸潤を誘導していることが分かった。併用群は抗PD-1抗体単独と比較してPFSがより良好であった。

(解釈上の限界)

・検証症例数が少なく、ランダマイズされていない(PhaseⅢ)検証でない点

・他癌腫での化学療法併用は短期的には効果改善があるが、長期に効果を持続させえるかは不明な点(docetaxelの血液毒性もある)

・腫瘍局所でのリンパ球以外の関与についてが不明

・中国製の候PD-1抗体のTislelizumabによる検証であり、日本の適応薬剤とは異なる点

 

(自己考察)化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用や前後の治療は化学療法が「腫瘍の高原暴露」を促すことから、T細胞による抗原提示を起こしやすくする可能性が色々と検証されてきた。トランスクリプトーム解析でcGAS/STING経路の活性化に伴うIFNγ誘導による免疫チェックポイント阻害剤の反応性の強化は過去のconceptとも一致するところもあり、現在開発されているSTING agonist抗体の後押しをする概念にもなるとは考える。前立腺癌ではまだ免疫チェックポイント阻害薬の適応が追い付いていないこともあり、cold type(免疫的な炎症が惹起されにくい腫瘍)に免疫チェックポイントを効かせるための次の検証の土台にはなると考えられる。

興味深いのが、CD8+CD103+DCがDocetaxel投与後に増えている(Fig.2)事から、同様にCD8+TのCD103についても見てもらいたかったな・・というのもある。また化学療法投与により腫瘍側のPD-L1発現が確認されていることからこの点でも抗PD-1抗体が効果を示しやすい環境が整えられている可能性も考えられる(Fig4.a)

しかし倫理面度外視でいきなり抗PD-1抗体+化学療法をこの癌腫で行うところはさすが中国といったところか・・

 

(参考)DocetaxelにおけるSTING活性化に伴うcold打破

(抗PD-1抗体+docetaxelと抗PD-1抗体単剤のwaterfall plot)※見方が逆な気がするけど・・。またOSデータについて