melanomaにおける抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体の耐性解除に膜タンパクのSK1阻害が有用な可能性
Resistance of melanoma to immune checkpoint inhibitors is overcome by targeting the sphingosine kinase-1.
【Nat Commun. 2020 Jan 23;11(1):437.】(オープンアクセス)
【内容】
腫瘍細胞におけるSK1(スフィンゴシンキナーゼ-1)の発現増加が抗PD-1抗体で治療されたmelanomaのOS短縮と有意に相関していたという報告
SK1を治療標的にすると、melanomaや乳がんや大腸がんのマウスモデルで免疫チェックポイント阻害薬に対する反応を著しく増加させた。
このメカニズムとして、このSK1のシグナルを阻害する事で腫瘍微小環境における免疫抑制因子の発現を抑えてTreg(制御性T細胞)の腫瘍への浸潤を抑制する事を示している。腫瘍内に浸潤するTregの浸潤を抑制する事にもなるので、腫瘍特異的なeffector Tregである可能性も高い。
そのため免疫チェックポイント阻害薬の効果増強の可能性として脂質キナーゼである
SK1を阻害する事に依る可能性を提示している。
【備考】
論文のFigureを出せなくて恐縮だが(open accessなので誰でも見れますよ)、
この報告は現時点で使用できるmelanomaの抗CTLA-4抗体+抗PD-1抗体による治療の抵抗性と関与しているという事だ。この治療はmelanomaでの有力な治療ではあるが、効かない症例に対しての対応が現状として問題となっている。
一番良いのは、効かなかった後のことを考えるよりも、より効かせる事。
その点で、将来展望ではあるが、このSK1阻害が免疫チェックポイント阻害薬の奏効をより上げて予後を改善させる結果に繋がるかどうかがヒトでも求められる。
面白いのが、SK1の過剰発現は、肺や胃、乳癌や神経膠芽腫など様々な癌腫で報告されている事。(孫引き文献を参照してみてください)
また、そもそもSK1の高発現は臨床研究によるメタ解析によりOS不良と相関するという疫学的なものも出ている
今までメラノーマでの報告は無かったようだが、今回この報告が出た事からもメラノーマにおける可能性も示唆されたことになる。
ただしまだ症例数が少ない解析であったため、別途前向きの検証がされているとの事だ。(IMMUSPHINX:NCT03627026)
SK1の生理的メカニズムは、このSK1によるシグナルで脂質S1Pを生成。その後、細胞内作用や腫瘍細胞と腫瘍微小環境の免疫細胞などに発現する5つの受容体(S1PR1-5)と結合する事により機能を発揮させる。この機能として、腫瘍における血管新生促進などが知られている。この細胞外S1Pを抗S1P抗体で中和したら様々な血管新生因子(bFGFやVEGF)などを抑制した報告もあるとの事。
この研究ではSK1のダウンレギュレーションをさせているマウスモデルを使用しているが、免疫不全マウスやCD8+Tを欠損させたマウスではSK1阻害剤での治療効果が得られなかったことも有り、免疫機能を司るCD8+T細胞の存在が重要である事を示している。
この事からもCD8+Tの疲弊状態を解除しつつも腫瘍微小環境を整備する一環でのSK1阻害剤との併用は、免疫チェックポイント阻害剤の抵抗性回避の可能性を示唆しているともいえるだろう。
マウスモデルではあるが、乳癌や大腸癌での同じ検証でも可能性を拡げられている事からも次はヒトでの可能性を検証するステージに入ってくるのかもしれない。
ただし肝心のSK1阻害剤に関連しているメーカーは見いだせなかった。
となるとまだこれを臨床のステージに上げていく事は難しいのかもしれない。
試薬としては当たり前にあるSK1阻害剤ではあるが、まだPhaseⅠにまで至っていない事を考えるとまだまだ先は長いのかもしれない。
根本的な問題ではないのかもしれないが、抵抗性解除のためには血管新生阻害系との薬剤との併用がその代用になったりするのでは・・?と考えてしまう。
そうなるとやはり、VEGF-TKIや抗VEGF抗体が免疫チェックポイント阻害薬との併用に適しているのではないかというrationaleにはなるのかもしれない。