アデノシン代謝に関わるCD73阻害とA2AR阻害により免疫チェックポイント阻害薬を効きやすくする可能性
腫瘍代謝におけるアデノシン代謝はもともと自分の研究テーマにも沿っていたのでマークしていた。このアデノシン代謝に関わる腫瘍細胞の表面分子としてCD39やCD73に着目をしていたが、その抗CD73抗体や、CD73によるATPの脱リン酸化によって生じるアデノシンの受容体であるA2ARの抗体も臨床試験が組まれるようになってきている。
今回の報告は、もともと免疫チェックポイント阻害薬が効きにくいと言われる癌腫において、この抗CD73抗体や抗A2AR抗体と免疫チェックポイント阻害薬を併用する事に依る可能性を感じさせるものとなっている。
CD73 on cancer-associated fibroblasts enhanced by the A2B-mediated feedforward circuit enforces an immune checkpoint.
【Nat Commun. 2020 Jan 24;11(1):515】
【内容】
アデノシン代謝に関わる細胞膜分子のCD73はエネルギー物質であるATPを脱リン酸化してアデノシンを生成する分子であることが知られている。この分子は腫瘍細胞で過剰発現している事が知られている。腫瘍はかなり代謝を活発化させておりATPを脱リン酸化してエネルギーを取り出すと同時にその生成物であるアデノシンは腫瘍周辺の免疫細胞の活性化を阻害する事が知られている。
この現象はこのアデノシンと低分子アデノシン2A受容体であるA2Aレセプター(A2AR)を介して機能する事が知られており、腫瘍代謝におけるチェックポイント分子であることから近年治療ターゲットとして研究や臨床での可能性を検討されている。
この報告では、結腸直腸癌(CRC:colon rectal cancer)をモデルとして、癌関連繊維が細胞(CAF)とCD73阻害が免疫抑制を打破し免疫チェックポイント阻害薬を効かせやすくする可能性を検証している報告。(マウスモデルでの検証)
癌関連繊維芽細胞の形成は腫瘍環境下特異的であり、かつこの発現は癌の悪性度や予後不良にも相関している。このCAFの発現は先ほどのCD73活性の上昇とも相関していたとの事。このCAF-CD73の関連は、CD73がトリガーとなって生じるアデノシン(ADO)とA2AR-を介したシグナルによってより強くなることを示唆している。
ここで、抗CD73抗体を使用する事はA2AR阻害とCAFが多く発現している腫瘍における腫瘍免疫を強化できる可能性がある。
抗CD73抗体による治療はアデノシンを介した腫瘍免疫抑制解除と腫瘍の悪性度を上げるCAF形成阻害療法に寄与する可能性がある。この事から免疫チェックポイント阻害薬との併用も大きな可能性を示す事となる。
別の報告では、すでにASCO-SITC2019という学会で抗CD73抗体単剤における用量選定試験においての結果が一部出ているが、単剤だけではどうもちょっと厳しい様子。
Immunobiology and Clinical Activity of CPI-006, an Anti-CD73 Antibody with Immunomodulating Properties in a Phase 1/1b Trial in Advanced Cancers
https://www.corvuspharma.com/file.cfm/23/docs/SITCFINAL_2019_11052019_vs1.pdf
一方で、抗PD-L1抗体(Durvalumab)+AZD4635(アストラゼネカ社の抗A2AR抗体)では前立腺癌において一部有用な可能性も報告されている。
このAZD4635は実は日本発の製剤で「そーせいグループ」が創薬したもの。
2015年にはアストラゼネカ社にライセンスアウトしている。そのこともあり、この報告を受けたそーせいグループは一時期株価5%アップになったとか。
PhaseⅠ試験の結果でここまで上がるという事は・・
まだまだ腫瘍免疫用医薬品の兼ね合いはいろいろあるという事か・・。