腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

やっぱり難しい・・ 膵臓癌におけるICI+RT戦略(PhaseⅠ試験)

免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の開発は様々な癌腫で走っているが、膵臓癌に関しては厳しいという現状が浮き彫りになっている。
この膵臓癌、特に膵管腺癌(PDAC)に対してICIの有効性を放射線療法で高められないかの検証を行っている。

 

 

f:id:takatakagogo:20200202151236p:plain

 
今回の検証では定位体放射線療法(SBRT)と抗PD-L1抗体のDurvalumabと抗CTLA-4抗体であるTremelimumabを併用したPhaseⅠ検証が行われた。
 
この手の放射線療法との併用において、最も難しいのは線量とタイミングである。
今回の検証では、
CohortA1&A2でDurvalumab2週毎+8Gy(day1)と25Gy(day3以降)
CohortB1&B2でDurvalumab+Tremelimumab週毎+8Gy(day1)と25Gy(day3以降)
 
PhaseⅠなのでDLT(用量制限毒性)をまず観察していた。
一般的な有害事象はリンパ球減少だったとの事。
全体として2例PR(部分奏効)が得られたようだが、全体的な奏効率は5.1%。
PFSとOSの中央値は、
cohort A1で1.7か月、3.3か月。
cohort A2で2.5か月と9.0か月。
cohort B1で0.9か月と2.1か月。
cohort B2で2.3か月、4.2か月。
という結果だった。
 
どう贔屓目に見ても良い結果とは言えない。
これを基に今後PDACでも開発を進めていくのかどうかは不透明だ。
 
個人的に気になるのは、RT照射は照射範囲が広いので骨髄にもダイレクトにあたる。
となると造血能障害も生じる事になりリンパ球がベースラインまで帰ってこない事が多々ある。よく放射線照射部位以外にも有効性が得られるという効果(アブスコパル効果)というものなどを聞く事があるが、そもそもリンパ球の総量を落としてしまう治療がどこまで有用なのかがよくわからない。
 
放射線療法をする事により腫瘍崩壊を起こし、抗原暴露しやすくなり免疫細胞による腫瘍抗原認識を増強するというのが一連の機序と考えられるが、果たして、リンパ球減少と抗原暴露とどう相関するのかはよくわからない。
 
また、抗CTLA-4抗体+抗PD-1抗体に加えてRTをしたところで膵臓癌を克服できないという事は、そもそも抗原提示がうまくなされているのかどうか?という原点的なところも気になるところである。
 
膵臓癌に関しては私個人も注目している疾患でもあり、今後有望な治療が出てきてくれることを切に願っている。