腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

放射線と免疫チェックポイント阻害薬 アブスコパル効果はどういう症例で引き起こされる?

個人的にはツボった報告。放射線治療(RT)は照射の際に骨髄にもあたってしまうために骨髄抑制を来してしまう。過去調べていた際にはリンパ球においても、放射線後とベースラインとを比較すると、ベースラインまでリンパ球が戻らないというケースも多く存在する。本来ならRT+免疫療法(ICI)も造血能を落としてしまう観点から考えて、どう影響を及ぼすのかが気になっていた。

化学療法やRTによる腫瘍抗原暴露に伴うICIの効果増強?

化学療法やRTによる骨髄抑制によるICIの効果抑制?

色々な可能性が考えられるが、現状、臨床では化学療法やRTにICIを併用する試験は有望な結果を示してきている。骨髄抑制を上回る効果があったりするのか・・?

そうもやもやしている時に下記の論文をみかけた。

 

Absolute Lymphocyte Count Predicts Abscopal Responses and Outcomes in Patients Receiving Combined Immunotherapy and Radiotherapy: A prospective-retrospective analysis of 3 phase I/II Trials.

Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2020 Feb 6. pii: S0360-3016(20)30158-9】

インパクトファクター:6.203】

ICI+RTの際に一時期言われていた「abscopal effect(アブスコパル効果)」

これはRT照射部位による腫瘍縮小は当然だが、非照射部位においても腫瘍縮小が見込めるといった反応である。

仮説ではあるが、ICI投与により活性状態を有したCD8+T細胞が腫瘍部位の抗原を認識する事により転移巣(非照射部位)の抗原も認知し抗腫瘍効果を示す(可能性)というメカニズムだ。このeffectが見られる要因はいったい何なのか?

それについて過去行われていた試験を紐解いて解析を行っている報告だ。

 

【内容】

RT+ICIsの3つのPhaseⅠ/Ⅱ試験の記録を調べ、アブスコパル効果の予測因子を調べている。

全ての症例はICIs+RTを受けており、少なくとも1つは非照射部位があることと、RT照野外での反応を評価している。

全体で153例の症例を解析している(追跡期間の中央値は21.1ヵ月だった)

NSCLCが62例、SCLCが25例、頭頸部癌が16例、腎細胞癌が13例であった。

免疫療法は、イピリムマブが98例、ペンブロリズマブが55例含まれていた。

RT照射後の絶対リンパ球数(ALC)が高い症例でアブスコパル効果が高かった。

ALCが中央値よりも高い症例で34.2%

ALCが中央値よりも低い症例で3.9%であった。(P<0.001)

RT前のALCにおいては、

ALCが中央値よりも高い症例で30.35%

ALCが中央値よりも低い症例で7.8%(P = 0.0004)。

Cox多変量解析により、RT後のALCの低下はPFSの低下(p = 0.009)およびOS(p = 0.026)にも関連していることが確認された。

 

つまりもともとの私の仮説の通り、ベースラインのリンパ球数を維持しつつ、RT照射後のリンパ球数を維持できている症例が有望という事になる。

となると、元々のベースラインの造血能の評価とRT実施後の造血能の維持の観点から、RT照射の線量やスケジュールも検討していく必要性を感じさせる。

抗原提示をさせる程度のRTであればそこまで多くの線量は必要が無いはずで、さらに局所に線量を絞る事により骨髄へのダメージを限定的にできる可能性もあるかもしれない。線量や照射スケジュールや部位変更で、ベースラインの造血能維持とアブスコパル効果の反応性がさらに増加するようであるのならば非常に興味深い。

おそらくこのような形で原発も転移巣も免疫系が認識ができるのなら長期にわたり治療効果を維持する事も可能な気がする。