腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

免疫チェックポイント阻害剤によるステロイド不応難治性大腸炎に対する最適なアプローチとは?

Efficacy and safety of vedolizumab and infliximab treatment for immune-mediated diarrhea and colitis in patients with cancer: a two-center observational study

【雑誌】J Immunother Cancer. 2021 Nov;9(11):e003277. doi: 10.1136/jitc-2021-003277.(open access)

(pubmed )https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34789551/

(journal) https://jitc.bmj.com/content/9/11/e003277.long

(Impact factor)11.367(2022)

(author) Fangwen Zou:Xiangya Hospital(テキサス大学との共同研究)

(目的)ステロイド難治性に対する2剤の免疫抑制剤の有効性とアウトカムの検証(infliximab or vedolizumab)

(方法)2016年から2020年にかけて、ステロイドに続いてSITを受けたIMDC患者を対象に、2施設の後ろ向き観察コホート研究を実施

(結果)合計184例(vedolizumab 62例、infliximab 94例、順次併用28例)

下痢・大腸炎(IMDC)の臨床的寛解を達成する効果は、両群間で同等であった(89% vs 88%、p=0.79)

infliximab群と比較して、vedolizumab群はステロイド曝露期間が短く(35日 vs 50日、p<0.001)、

入院回数も少なく(16% vs 28%、p=0.005)、入院期間は短かった(中央値 10.5 vs 13.5 日、p=0.043)

一方で臨床効果の発現までの期間は長かった(17.5 vs 13日、p=0.012)。

免疫チェックポイント阻害剤の治療期間が長いこと(OR 1.01、p=0.004)とステロイドの使用(OR 1.02、p=0.043)、

infliximabの単独使用(OR 2.51、p=0.039)はIMDC再発と高い相関があった。

さらに、SITの3回以上の投与(p=0.011)、ステロイドの漸減試行の少なさ(p=0.012)は、良好な全生存と関連していた。

(結論)  IMDCに対するvedolizumabの投与はinfliximabと比較して、IMDC奏効率、ステロイド使用期間、入院回数、IMDC再発率が同等であったが、IMDC奏効までの期間が若干長かった。SITの投与回数が多いほど生存率が高く、ステロイドの使用回数が多いほど予後が悪かった

(解釈上の限界)

・両剤の治療介入のタイミングバイアス(infliximabはvedolizumabに比べて大腸炎発症からの投与開始が遅かった)

・OSに関しての検証は様々な交絡因子が絡むため盲信するわけにはいかない

・CTCAEと内視鏡検査での確認など背景が揃っていない

・大腸炎を引き起こしたtreatment内容が不明

 

(自己考察)

考察にも触れられていたがinfliximabはバイオシミラーの登場もありコストも下がったことからステロイド難治性の大腸炎に対して使われる機会は世界的に増えていくのかもしれない(日本ではインフリキシマブBSで発売されている)。日本では保険償還はされていないが、実臨床でも緊急時の対応で比較的使われる機会が増えてきているとは学会などで聞いたことがある。vedolizumabは2014年まで炎症性腸疾患での利用がない国が多く、最近になってようやく知名度を上げてきている国もあるのかもしれない。過去の大腸炎ガイドラインはinfliximabだけであったが、抗インテグリン療法として大腸炎治療の検証を国内でも進める必要はあるのだろうか?

infliximabは抗TNFα阻害薬であることから二次性発癌や重篤感染症の発言なども問題視されている。vedolizumabは抗Α3β7インテグリン抗体製剤であり炎症を惹起するT-cellを腸管選択的に集めさせないという機序となっているためそのような有害事象は起こりにくいといわれている

考察にもあるがvedolizumabでの6つの臨床試験のpooed解析ではプラセボと比較して感染症を増加させず二次性発癌のリスクも少ないとされている(引用22)。問題の大腸炎の効果判定はCTCAEグレードおよび内視鏡・組織学的所見で評価してはいるようだ。

2剤を逐次投与した症例において25例(89%)がinfliximabからvedolizumabに変更、11%がvedolizumabからinfliximabに変更されておりこのグループの68%が寛解に入っていることから一剤に抵抗性を示す場合は代替えを検討することが重要なのかもしれない。

infliximabは1回投与して2週間後にもう一回投与するようだが、1回目で見切りをつけてvedolizumabに行ったほうが良いのかな?

興味深いのは、infliximab群は最終フォローアップ時の癌増悪がvedolizumabに比べて有意に高く長期OSで劣っていたとのことだ。

おそらくはinfuliximab群ではステロイド暴露量が多かったためではないかと考察されているが・・。

改めてvedlizumabの作用機序を勉強したくなった。integrin signaling geneなどとの辛みは何かあるのだろうか?

integrin signaling geneはひょっとすると免疫チェックポイント阻害剤との関連もあるような報告もあるため、併用することでなにかpositiveなeffectにつながるのかという方面も仮説として持っておきたい。