腫瘍免疫と免疫チェックポイント阻害薬の将来展望

腫瘍免疫関連の医療関係者です。主に癌や免疫などの研究に従事しています。近親者を癌でなくして依頼、研究を進めています。様々な癌における将来展望、現時点での方向性などを研究者観点で書いていきます。主に自分の忘備録ですが、癌と向き合っている方々への情報発信の場となればいいなと思っています。このブログで取り上げている内容はまだ日本で治療を受けることが出来ないものなども含まれますのであくまで今後の展望を見る、またはニュースとしてご覧になってもらえればと思います。

抗CTLA-4抗体のセンチネルリンパ節の局所投与は腫瘍制御に有用なのか?

Local delivery of low-dose anti-CTLA-4 to the melanoma lymphatic basin leads to systemic T reg reduction and effector T cell activation

【雑誌】Sci Immunol.2022 Jul 15;7(73):eabn8097. doi: 10.1126/sciimmunol.abn8097. Epub 2022 Jul 15.

(pubmed )https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35857579/

(journal) https://www.science.org/doi/10.1126/sciimmunol.abn8097

(Impact factor)30.53(2022)

(author) Kim M van Pul  UMC location Vrije Universiteit, Medical Oncology(オランダ)

(癌腫) pan-tumor

(カテゴリー)局所投与

(目的)抗CTLA-4抗体の局所投与は全身性の毒性軽減の可能性があり検討の余地がある。局所戦略を考えるにあたり、まず最初にmelanomaにおいて外科的切除後に抗CTLA-4抗体をセンチネルリンパ節生検(SLNB)前に投与することで腫瘍排出リンパ節(TDLN)の役割を調べることを目的としている

(方法)melanoma13例を対象にSLNB実施前にTremelimumabを皮内投与し安全性と忍容性を確認(PhaseⅠ,NCT04274816似て検証済み)

皮内投与は忍容性もよく、SLNにおけるDCサブセットの活性化を誘導した。SLNと末梢血の両方でTregの減少とTeff(エフェクターCD8+T)を活性化していた。腫瘍関連抗原を13例中7例でNY-ESO-1またはMART-1に対する全身性T細胞応答を生じ、T細胞の活性化および中心記憶T細胞の分化と関連して、プライミングまたはブーストを起こしていた

(結果)

抗CTLA-4の局所投与が、早期黒色腫患者に対する安全かつ有望な補助治療戦略を提供する可能性を示している。

さらに、今回のデータは抗CTLA-4抗体の生物学的効果におけるTDLNの中心的役割を示していた。

(結論)

抗CTLA-4抗体のセンチネルリンパ節への生検前の投与をclinical phaseに役立てられる可能性を見出せた。その際にはtremelimumab 20mgが可能性。

(解釈上の限界)

・本報告では抗CTLA-4抗体のSLNへの局所投与でTregを減らしたとなっているが、臨床的に抗CTLA-4抗体で局所のTregを減らすという報告はまだ少なく今後の再現性確認が必要となる

・抗CTLA-4抗体の局所反応でのTreg抑制が全身のTreg抑制に寄与するとあるが、それだと全身性のimmune-related AEに繋がる可能性があるのでは?

・臨床応用されているIpilimumabではなくTremelimumabのデータである

・局所投与と全身投与の違いが明確になっているわけではない(Tremelimumabはメラノーマの適応なし)

・他の報告では抗CTLA-4抗体がTMEのTregを除去するがPBMCのTregは減少しないという結果であり、本研究結果は逆となっている

・他癌腫での再現性の確認、またTremelimumabではなく別のタイプのIpilimumabでも同様の結果かどうかの検証が必要となる

 

(自己考察)

今まで抗原提示細胞が抗原を認識するprimingは局所で起こるものだといわれていたが、免疫チェックポイント阻害薬の登場からの研究で、実はprimingは局所のみならず全身で起こる可能性が示唆されてきた。しかしながら大規模な試験で検証されたものは少ないままここまで来ている現状である。

今回の結果は抗CTLA-4抗体がMelanomaでの局所(dSLN)を通じて全身反応を強化させたというデータとなっている。

詳細な実験系は論文中に記載されているが、TDLNにおける抗原提示に必要なDCと制御性T-cellのTregの相互作用にかかわるCTLA-4をブロックすることで抗原提示を局所で起こし、Tregの全身的な供給を抑えることができると述べている。(あくまでまだ仮説レベル)

この説が正しければ、局所反応を誘導できれば全身のTregを抑え込むことにつながるので正常組織防御をしているeffector Tregにも影響を及ぼすんじゃないのだろうか?と不安になってしまう。腫瘍特異的なTregだけ数を減らす・・とは考えにくいので、このあたりはどうなのだろうか?

実際に、他の報告では抗CTLA-4抗体は腫瘍局所のTregを減らすとあるが、末梢血中のTregは減らさないという報告のほうが多い。

今回の検証と乖離があるがどうなのだろうか?

 

ただ周術期において、腫瘍切除前の所属リンパ節に免疫チェックポイント阻害薬(特に抗CTLA-4抗体)を投与して免疫疲弊状態や抑制状態を解除しておいてからopeを行う方法も考えることは夢がある。ある意味リンパ節が残っている状態でのNACのような位置づけになるかとは思うが、これで本当に抗CTLA-4抗体による全身primingと同等のアウトカムが得られる(AEの軽減も含む)につながるのであれば、オペの手技のような一環での検証も進むかもしれない。臨床的には所属リンパ節は切除する方針なので、今もまだリンパ節郭清は免疫チェックポイント阻害薬の効果を活かす上でどうなのか?という議論は続いている。周術期に局所投与で投与回数を抑えて安全に使えて効果をきたす治療戦略になる・・のであれば本当に夢が広がる気がする。